まだ殺してやらない

部屋を綺麗に片付けてから筆の様子がおかしい
著:蒼井上鷹 デ:坂野公一(welle design) 講談社ノベルス*1

殺人事件を追うノンフィクション作家瀧野は、妻を殺した犯人を自ら追い求め、有力容疑者カツミの逮捕に至るが、似た手口で助手が殺され、真犯人からのメッセージが――何故犯人は時間のかかる殺し方を選ぶのかミステリ。
真犯人が掴まらないまま、すっかりやる気をなくして自堕落な生活をするようになった瀧野ですが、折にふれ、息子の克実に緊急時の身の振り方を教える様は、日頃はエネルギー消費を抑えつつ教えるときはきちんと教える『パイナップルARMY』(工藤かずや浦沢直樹) *2の戦闘インストラクター豪士のやり方を思い出しました。
冒頭の事件がスピーディに進むのに対して、その後の展開はじっくりねっとりとした展開で、登場人物が皆怪しく見えてしまう非日常感があります。『殺人の駒音』(亜木冬彦) *3横溝正史賞受賞時の選評で、殺人の経済性「その程度の動機でこんなに人を殺すか」が論じられていたことがありました。そのときは確かに私もそう思ったりしたんですが、今では本作の犯人の動機に納得してしまうことに、時代の流れとある種の恐怖を感じます。

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