探偵小説のためのバリエイション「土剋水」

あたしにはカルタしかない。胸はあるけど。

競技かるた名人戦で親友を亡くしたあかねは、住田温泉で神角五冠との歌龍戦に臨むことになるが、被害者三人の殺人未遂事件が発生したにもかかわらず陰陽師探偵るいかは今日も遅刻で――妄想爆発の超絶論理ミステリー。
彼氏いない暦17年の水里あかねが繰り広げる年齢を超えた妄想のリズムが心地良くなってしまった本シリーズ、今巻でもめくるめく妄想がたまりません。今巻の妄想は両刀遣いで手当たり次第、人と見れば縛る恋に落ちる、そんな感じでしょうか。
作中では、一人称の語りの妄想が綴られたノートが実在することになっていて、小説家志望の夕子には途轍もなく良質の素材ですが、単なる大食いの楓が引いちゃう、というのも頷けます。その根本には、身近な実在の人物を、その人物とは切り離された架空のキャラクターにすることの難しさがあるのかも。
そんな妄想大爆発の本作ですが、推理の過程は超論理的。コモのボーナストラックと称した脚注が今回の目玉なんですが、まるでPrologによる推論の過程を見ているかのよう。導き出された命題を「定理」ではなく「公理」と呼ぶところは、ミステリーにおけるゲーデル問題の影響でしょうか。
貧乳に言及されると前世の記憶がほとばしるあかねの性癖を生かした事件発生の状況にも唸りました。
前巻*2が「水剋火」、今巻が「土剋水」なので、次巻は「木剋土」でしょうか。楽しみです。

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