ハローサマー、グッドバイ

ぼくがあの夏の少女のことを忘れないたった一つの理由
著:マイクル・コーニイ 訳:山岸真 画:片山若子 河出文庫*1

避暑先で宿屋の娘ブラウンアイズと念願の再会を果たした《ぼく》こと政府高官の息子ドローヴは、隣国との戦争と凍りつく冷気の影に覆われる夏を彼女と過ごし――寒気の中、身分違いの恋の結末SF。
身分の差を理由にブラウンアイズを蔑視する父母に反発するも、達者な口先を体力で父に抑えつけられるドローヴ。冒頭では、他人を馬鹿にする子供っぽさがそこかしこに見られてちょっとイタい感じ。大人の女性に導かれる男の子イヴ/『レダ』(栗本薫) *2 *3 *4とはちょっと違って、ドローヴの中二病は少しずつ自然治癒していきます。治り切らないところが本作の味。
本作のヒロイン ブラウンアイズは、ちょっと嫉妬はするけど一途で健気な女の子、といった感じで、彼女の友人であるリンダのツンデレぶりに喰われ気味。そのことを自覚しつつドローヴに対しても不安を隠さないあたりは、押し掛け型ヒロインにはあまり覚えがなくて、ちょっと新鮮です。
寒気を怖れる異星の話、ということで、原文では、frozenやfreezingなど「凍る」系の言葉が悪態語になっているらしいんですが、普通に日本語に訳した上で、「氷結車(フリージングくるま)氷なことに(フリージング)目づまりしやがったんだ」みたいにルビを振ってます。柳瀬尚紀が訳したなら「サムい車がサムい目づまり」とでもするところでしょうか。
ドローヴとブラウンアイズの恋模様、やることはやるんだけど、『スラン』(A.E.ヴァン・ヴォクト) *5的なもどかしさもたまらない一冊です。

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