わたしを離さないで

為善も偽善も人しだい
著:カズオ・イシグロ 画:民野宏之 ハヤカワepi文庫*1

施設ヘールシャムで育ち、提供者を世話する介護人となったわたし キャシーは、同窓の親友トミーの担当となり、施設の奇妙な日々を回想する――あなたのためを思って隠しても隠しきれない残酷さの物語。
ヘールシャムでの教育環境は、たとえば『アイランド』(マイケル・ベイ) *2や『通りすがりのレイディ』(新井素子) *3の施設よりもはるかに人道的ではあるのですが、罪の意識から逃れたい、との意識が保護官の姿勢の端々からも見え、行動しない自分が糾弾されている気分にとらわれます。
浮気は完全に隠し通して欲しい、中途半端に機嫌をとるのが一番良くない、という意見を見ることがよくありますが、ヘールシャムのやり方は、「中途半端に機嫌をとる」ことなのかも。
穏やかに事態を受け入れるようになったキャシー達を見ていると、ヘールシャムの教育によって、直近の問題は確かに「解決」されているけれども、根本的な問題の解決からは遠くなっている気すらします。
大人に戦争を強いられた子供が戦争終結から1年後に再会する『リバーズ・エンド after days』(橋本紡) *4がハッピーエンドストーリーなら、本作は平穏なバッドエンドストーリー。お薦め。

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