黒十字サナトリウム

喀血は呼吸器から、吐血は消化器から
黒十字サナトリウム
著:中里友香 画:笠井あゆみ 装:岩郷重力+WONDER WORKZ。 徳間書店*1

狂気を自覚した戦争帰りの梶原、異人の伯爵夫人に魅せられた結核患者 凪雲、易出血症と虐待に呵まれる双子の兄妹 ミシィカとレイナ、黒十字サナトリウムでナースドリーの世話を受ける彼らは――吸血鬼の正体をめぐる衒学の第9回日本SF新人賞受賞作。
妹メリーベルを失ったエドガーと、彼を慕うアランの足跡をたどる美少年吸血鬼モノの『ポーの一族』(萩尾望都) *2 *3 *4では、吸血鬼同士の友情とも恋ともつかぬ微妙な感情の行き来が見処ですが、本作の前半は、登場人物が吸血鬼であることを自覚するまでの経過がキモ。
キリストの復活や日本の犬神、土葬や結核と吸血鬼の関係、そこかしこで語られる故事来歴や衒学講義が、復活祭の日に起きるイベントで一連の流れに纏まる謎解きも、その流れに沿っています。
本作の後半や番外編の「逆十字入門」は、『ポー~』でエドガーとアランが、新たな仲間を作ろうとして失敗したり、仲間を作らずに人間を育てたり、の悲喜劇に通じるものが。
鏡職人カジミールに自分が映る鏡の製作を依頼する吸血鬼イレーナ「通りの瓦斯燈に青い灯が入ったとき」は、『BLACK BLOOD BROTHERS (S) 6』(あざの耕平) *5が好きな方にお薦め。

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