子守唄しか聞こえない

緑色の海も橙色の中央線も人を引き寄せる
著:松尾依子 講談社*1

男友達四人に囲まれる美里の高校生活は、鬱陶しくつきまとい始めた真沙子のせいで、大きく揺らぎ始め――逆ハーレムに割り込むライバル、第51回群像新人文学賞受賞作。
複数の異性に囲まれる主人公の生活に他の同性が割り込んできて、という構図は、『さよならピアノソナタ3』(杉井光) *2と共通するのですが、本作の場合、愚鈍で鬱陶しい嫌な奴が割り込んできて、居場所が侵されていく怖さが目立ちます。嫌な奴にも親しさを見せるようになる男友達に苛立ちを隠し切れず、その態度がますます自分の立場を悪くして、の悪循環。
美里にストーカー的な好意を見せる真沙子の態度は、『さよなら~』で主人公ナオミ♂に好意を寄せるユーリ♂の態度と基本は一緒のはずなのですが、主人公側の受け止め方がまるっきり逆で面白い。相手に対する感情が、軽蔑なのか劣等感なのか、の差が如実に現れています。
美里の彼氏であるタイラは、この年齢にして、男の子であるが故の限界を無意識で理解している、あまりにも良い奴。この《都合の良さ》は、ハーレムものの幼馴染みヒロインに通じるものがあって、妙な感慨を覚えました。

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