このライトノベルがすごい! 2009

ラノベサイト管理人連合の黄昏

編集部が依頼した協力者と、ウェブ投票者や一般人から選んだモニターで、票の重みが違うライトノベルランキング、宝島社が開催するようになって、ついに5回目を迎えました。この日記では、以前から「このラノ値」という指標を使って種々の分析を試みています(→2005年版2006年版2007年版2008年版)。

投票者の変遷

今回の分析、まずは、投票者の変遷について見ていきましょう。このラノ2009は、協力者56人(持ち点1位10点〜5位6点)、ウェブ投票者1457人(〃1位5点〜6位1点)、モニター103人(〃1位5点〜5位1点)の構成。ウェブ投票者の数は、前回の656人から倍増しています。これまで5回の投票者数分布は、こんな感じ。

2005年版69  120+219
2006年版56  103+343
2007年版50  103+321
2008年版46  102+656
2009年版56  103+1457

企画開始当初の3年間は、投票者数に大きな変化はありませんが、『フルメタル・パニック!』(賀東招二)受賞(589点/128票)の2008年、『文学少女シリーズ』(野村美月)受賞(1530点/379票)の2009年と、ウェブ投票者が倍々に増えています。来年の2010年版では、ウェブ投票者が3000人になるのか、それとも頭打ちになるのか、注目です。
次に総持ち点の変遷を見てみましょう。モニターウェブの持ち点は、2005年版では 1位1点〜5位1点でしたが、2006年版以降では 1位5点〜5位1点に変更されています。

2005年版2760  600+1095
2006年版2240  1545+5145
2007年版2000  1545+4815
2008年版1840  1530+9840
2009年版2240  1545+21855

2005年版では、協力者の投票の動向がランキングに大きく影響を与えていたのに対して、年々その影響度は減少し、2009年版では、事実上ウェブ投票者によって、ランキングが決定されている、といえそうです。
2005年版〜2007年版の受賞作は、『涼宮ハルヒシリーズ』(谷川流/125点)、『戯言シリーズ』(西尾維新/285点/67票)、『狼と香辛料』(支倉凍砂/281点/57票)。かりに、協力者全員が結託して、同じ作品を1位に投票したとすると、2005年版〜2007年版では、全体ランキングで1位をとることが可能ですが、2008年版以降は、それだけでは不可能になっています。
このラノの主役は、特定のマニアである協力者から、普通の読者により近いウェブ投票者へ、完全に移行したことになります。
ここで気になるのは、ライトノベル読者層中でPCを使っていない層。携帯電話でネットライフを楽しむ中高生は、おそらく投票していない、と思われることです。今後は、ウェブ投票者と、実際の読者がどれだけ一致しているのか、それとも乖離しているのか、見つめていきたいと思います。

熱烈作と定番作

このラノランキングのウェブ投票者は、1位5点〜5位1点の傾斜配点になっています。1位で投票した人の割合が多ければ(得票数に比べて得点が高ければ)、それだけ熱狂的なファンが多い、ということになるでしょうし、5位で投票した人の割合が多ければ(得票数に比べて得点が低ければ)、それだけ定番の作品である、といえるでしょう。
そこで、ウェブ投票者の好みが大きく反映されている2009年版の投票結果を、さらに2つの層に分解してみましょう。
ここでは、独立成分分析という手法を適用してみます。独立成分分析は、脳波の分析や音波・画像の分離などに利用できる手法です。理論的背景をすっとばして大雑把にいうと、「ステレオ録音されたピアノの弾き語りを、『ボーカルの声』だけの音声と『ピアノの音』だけの音声の2つに分離する」ことができる、という感じ。
独立成分分析器に、「右音声」として「各作品の得点数列(61次元ベクトル)」を入れ、「左音声」として「各作品の得票数列(61次元ベクトル)」を入れてみれば、出力の「ボーカル声」として「熱烈作品」(61次元ベクトル)が得られ、「ピアノ音」として「定番作品」(61次元ベクトル)が得られるんじゃないかな、と予想して、早速データを入れてみました。
結果は以下の通りです。協力者ウェブ投票者、モニターを別々に集計したランキングの上位作はその色で表記し、くまざわ書店・コミックとらのあなの売行き上位作には♠を付けました。それぞれのベクトルの上位12作のみ、示してあります。

 作品(-A)
14.76
23.96
3!3.44
43.04
5使2.82
62.48
71.97
8生徒会の一存シリーズ1.97
9嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん1.80
10俺の妹がこんなに可愛いわけがない1.77
11!1.76
12人類は衰退しました1.47
 作品(B)
16.62
22.34
3!2.30
4暴風ガールズファイト2.02
5GENESISシリーズ境界線上1.77
61.76
7とある飛空士への追憶1.38
8黄昏色の詠使い1.36
91.26
10AURA〜真竜院光牙1.24
11!1.11
12生徒会の一存シリーズ1.09

この結果を見ると、ウェブ投票者の上位作は、グループ(-A)とグループ(B)にきちんと別れており、グループ(-A)はモニター寄り、グループ(B)は協力者寄りな感じがあることがわかります。グループ(-A)には、売行き好調作が並んでいるのも特徴。

  • グループ(-A)は、メディアミックス大進行中、知名度の高い定番作品群
  • グループ(B)は、今まさにネット(の一部)で話題、信者も多い熱烈作品群

と、綺麗に分類ができたように思います。

ところで、過去の分析からは、マニア層と一般層の両方の支持を集めないと、上位入賞は難しい、ということがわかっています。今回の熱烈上位と定番上位の両方に登場している作品から見ると、次回このラノランキングの大賞予想は、

ということになりそうですね。

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