カンダタ

(い)んどでうまれたおしゃかさま

失業して妻子に逃げられてから二十年、こそ泥稼業に身を落としたカンダタ(58)は、忍び込んだ豪邸で、闘技場で罪人を斬る美少年剣士イヴァン(10)の予想外の姿を目にして――蜘蛛の糸切れてまっさかさまとなるか、ホワイトハート新人賞受賞作。
後書でも言及されている通り、『蜘蛛の糸』(芥川龍之介) *2を意識した本作ですが、そもそもの出会いでイヴァンがカンダタを見逃し、恩返しがあって、それをまた……のように、「見逃した恩返し」が重層化されていて、同じく『蜘蛛の糸』の翻案的側面を持つ『火の鳥鳳凰編』(手塚治虫) *3とは違った味わいになっています。
誰も聞いてくれないのに独り言を呟いてしまうことでカンダタの駄目オヤジっぷりが強調されたり、体言止めや自由間接話法を多用することで、昔話とか落語のような雰囲気が醸し出されたり。
いわゆるホワイトハートっぽい作品ではないという意味で、『ミミズクと夜の王』(紅玉いづき) *4のようなレーベルらしくなさが好きな方にお薦め。

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