黒百合

♪対照する女の子 期待してる男の子
著:多島斗志之 画:牧野千穂 東京創元社*1

1952年、六甲の避暑地で、私は香に恋をした。昭和16年神戸女学院専用の各駅停車で、日登美は私に恋をした――実る恋、実らぬ恋の嵌め込みミステリ。
はじめて日常ミステリを読んだときには、犯罪が起きなくても探偵役が謎を解けばミステリになるんだな、と思ったものですが、本作はそれとは逆。2つの殺人事件という犯罪は起きるのですが、謎を解く探偵役は登場しません。
ひと夏の初恋にドギマギの少年少女たちには、身近に起きた殺人事件の真相を暴く、なんて無粋なことをしている暇はなし。抜け駆けするかされるか、自分達のことだけで精一杯。そもそも、登場人物は誰も《謎》に気付いていません。
リドル・ストーリーのように謎を提示しておきながら解決は読者に委ねたり、『夏と冬の奏鳴曲』(麻耶雄嵩) *2のように解答*3が異常に難しかったり、ということがありません。すっと結論が頭に入ってくるところが凄い。
探偵が出てきちゃうと瑞々しい青春初恋モノの匂いが消えてしまいがちですが、本作では、日常の中に巧妙に謎解きを忍び込ませています。こういう見せ方もあり、のお薦め。

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