よわむし同心信長 天下人の声

長次郎さんのエア信長
著:早見俊 画:村上豊 コスミック・時代文庫*1

定町周りに任ぜられた小心者同心 信藤長次郎の趣味は、『信長公記』(太田牛一) *2の読書。慣れぬ任務で怪我を負い、賊に囚われた長次郎の頭に、織田信長の声が――第六天魔王が俺に命令する変身ストーリー。
本番に弱くて折角の剣の腕が生かせない長次郎が信長の伝記に逃避し、あげくの果てに信長の声が聞こえるようになってしまう本作。
そんな本作の設定には、中二病的な耽溺を描いた『AURA 魔竜院光牙最後の闘い』(田中ロミオ) *3や『セキララ!!』(花谷敏嗣) *4のヒロインにも似たイタさを感じても良さそうなところ。さほどでもないのは、「脳内信長」だからかも。
『AURA』や『セキララ!!』にしても、脱オタした俺の前に、かつての自分を思い出させる彼女が現実に現れるからこそ、客観視ができてイタいのであって、脱オタした俺の頭の中から中二病の彼女が語りかけてきても、赤面するような思いはしないものなのかもしれません。
と、ここまで考えて、むしろ本作は、『ヒカルの碁』(ほったゆみ小畑健) *5に近いのかも知れない、と気付きました。もっとも本作の場合、信長が満足して成仏することはなさそうです。

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