もうすぐ

そのときお腹が動いた
著:橋本紡 写:Manalyn Gracia/Fancy/amanaimages 新潮社*1

産婦人科医の逮捕をきっかけに、子供を産む女性を追うことになったネット新聞記者 由佳子だが、取材を続けるうちに――妊娠と出産の現実とは奮闘エピソード小説。
一人称の糖尿病闘病モノ『シュガーな俺』(平山瑞穂) *2と似た雰囲気が漂うのは、(おそらくは)作者自身の体験をそのまま描くのではなく、取材した、という体裁をとって、一歩引いた立ち位置になっているからでしょうか。
一番心に沁みたエピソードは、男性が会計をしたときに入院の予約をするか聞かれ、「考えます」と答えてそれきりにしてしまったために、子供を産む場所がなくなってしまったカップルの話。妊娠出産に限らず、一般人が専門家と相対するときにありがちな事件で、こういうちょっとしたことの積み重ねが不信につながるのかも。
由佳子の夫にして半分失業中の小説家哲也は、『リバーズ・エンド』(橋本紡) *3の拓己と同じく、おさんどん的に彼女に尽くすタイプ。私内の最近の勝手な印象でル・クルーゼ*4系に割り振られている作者ならでは、の、お薦め。

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