セリヌンティウスの舟

yomimaru2005-10-31

bk1

美月はどうやって自殺したのか、自殺に協力者はいなかったのか。残された五人は、死んだ彼女を含めた六人の信頼の絆を頼りに、謎に挑む――走れメロス(太宰治) *2を題材にした心理ミステリー。
嵐の海で互いの手を結んで遭難から助かったダイバー六人の揺るぎない信頼、それが謎解きの前提になっているのが新鮮。自殺した美月の遺書に書いてある内容が、カオカオ様が通る(諸星大二郎) *3のタパリ人の哲学に似ていて面白い。
美月も協力者も自分たちを裏切っていない、何か理由があってそうしたはず。この脆い前提の上で語り合う彼らの姿は、メロスが走る姿にも似て、ナルシシズムめいた甘美な匂い。
人を疑うという行為と同じく、なぜ隠すのかを微に入り細に入り相手が自分を思う心を信じて理解しようとする、という行為が、サスペンスの盛り上がりに使えるのは、新鮮な驚きでした。