遠まわりする雛

著:米澤穂信 装:岩郷重力+WONDER WORKZ。 角川書店*1

先延ばしにしてきた摩耶花からの告白に対する返答にますます苦しむ里志の「手づくりチョコレート事件」の記憶も新しい春休み、旧暦の雛祭りで集落を巡る生き雛をつとめる千反田から、傘持ちの大役を仰せつかった奉太郎は――表題作の書き下ろしを含む、女の子の告白に明解な答えを返したくないモラトリアムミステリー連作短篇集。
情報は集められるが自ら生かすことはできないデータベースを自認する里志と、竹林の清談よろしく体を使わずに頭だけで生きることをポリシーに掲げる奉太郎の男の子2人。上記の2作では、「俺って○○」とレッテルを貼ることで安定していた彼らの自意識が、変化を求める度胸を決めた摩耶花と千反田の女の子2人の力押しにぐらぐら崩れつつある状況を楽しむことができます。
オタクゆえに801ちゃんからの告白が現実と信じられず返事を先延ばしにするチベくんを描く「ボーイミーツ腐女子」/『となりの801ちゃん2』(小島アジコ) *2とは、低い自己評価と他人からの高い評価のギャップに、思考停止、理解不能の状況に陥いるところが共通してます。
このシリーズは一人称ミステリなので、奉太郎が語っていない、意図的に語らない何かがあるんじゃないかと、ついつい叙述トリックを考えながら読んでしまいます。二人が隠そうとしているのは、「この娘も悪くないけど、まだここで決めたくはない」といった、狡いけどありがちな男の心なのかも。そのあたりが透けて見えちゃうところが、このシリーズのホロ苦さなのかもしれません。

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