賢者の贈り物

彼女について僕が知っている2、3しかない事柄
著:石持浅海 画:パニ・啓 PHP研究所*1

親に見合いを迫られた僕だけど、今の交際相手 鈴音について知っているのは、電話番号とフリーターだということだけで――何も語ってくれない年下の彼女「泡となって消える前に」を含む童話へのオマージュミステリ短篇集。
石持ミステリに登場する友情のキモチワルサが何だか妙に癖になってしまった感のある私ですが、本作は、友情ではなく、恋愛がメインテーマで、「泡と~」はアンデルセン童話「人魚姫」がモチーフ。人魚姫に対する王子の感情を捻った結末が好み。
本書の登場人物には《無条件の信頼》は存在していなくて、むしろ「私が出す試験に合格したら信頼してやる」みたいな姿勢が見受けられます。この駆け引き的な態度は、恋愛の場合には良いスパイスになる模様。
クラスメートの仲野くんが私の作ったオブラート製のカンニングペーパーを交換した理由を考える「可食性手紙」では、相手の心を推理しては浮かれたり不安になったり、という恋の初期の心の揺れと、推理の展開がうまく呼応しています。
こういう風に考えると、友人関係に恋愛的な駆け引きを持ち込むところが石持ミステリのキモチワルサの理由なのかも。男同士の腹の探り合いならぬ心の読み合いはちょっとホモっぽいし、なんてことを感じました。

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