蝦蟇倉市事件

腕、首の切り様は、蝦蟇倉様に候ふな

年に15件もの不可能犯罪が起きる蝦蟇倉の住人は、大人も子供もどこかハレ気味で――競作11作のお祭り騒ぎアンソロジー
架空の街を舞台にしたこの競作集ですが、何だか高校文化祭のクラス参加の風景みたいな感じ。
優等生も馬鹿になり「浜田青年ホントスカ」(伊坂幸太郎)。自慢の体で協力の体育会系「Gカップ・フェイント」(伯方雪日)。隣のクラスから入り浸りの「毒入りローストビーフ事件」(桜坂洋)。
ヒロイン役の真知(!)の取り巻きは「不可能犯罪係自身の不可能犯罪」(大山誠一郎)・「密室の本」(村崎友)・「消えた左腕事件」(秋月涼介)。一人だけ盛り上がらない奉太郎役「ナイフを失われた思い出の中に」(米澤穂信)。
――という具合に、住人の異常さを住人の観点から描く《祭》が繰り広げられます。
量子力学多世界解釈推理小説の謎を絡めた「毒入り〜」の見方はかなり浸透力があります。「ナイフを〜」の大刀洗は最後にドアを開けようとするボーイ役だな、とか、謎を残したまま終わる「弓投げの崖を見てはいけない」(道尾秀介)を《ミステリーという密室の中に入り込んでしまっている読者》と重ねて考えると、本当にそういう結論だけしかありえないのか、とか。
お薦め。

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